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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)11570号 判決 1969年12月22日

原告

吉川理三郎

長沢八十吉

代理人

小坂重吉

弁理士

永島郁二

被告

ワンダフル産業有限会社

被告

有限会社瑞穂製作所

代理人

竹下甫

桑田勝利

入倉卓志

主文

1  被告ワンダフル産業有限会社は別紙イ号図面および説明書記載の座卓用の折畳自在脚を、被告有限会社瑞穂製作所は別紙ロ号図面(ただし、第六図は、その一のみ。)および説明書記載の座卓用の折畳自在脚をそれぞれ製造し、販売してはならない。

2  原告吉川理三郎に対し、被告ワンダフル産業有限会社は金四万円、被告有限会社瑞穂製作所は金七万円およびそれぞれこれに対する昭和四二年三月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は四分し、その三を被告ら、その余を原告らの各負担とする。

5  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一および二<省略>

三よつて、被告ワンダフルが製造販売したイ号図面および説明書記載の折畳自在脚と被告瑞穂が製造販売したロ号図面(第六図の一のもの)および説明書記載の折畳自在脚(以下、「被告らの製品」という。)を本件登録実用新案と比べると、被告らの製品の(a)から(i)までの構造(編注――構造の説明

(a)  天板1を上端外方に突設した中空支柱2の一側より底面にかけて長孔33’を穿設し、該長孔33’の両端を一側に折曲げて係止孔44’および55’とし、係止孔44’の内角部にアール面66’を形成し、

(b)  縦長状板バネ88’の両側に押ボタン77’を突設し、その上部はややコ字状に折曲げて係止面99’を設け、

(c)  縦長状板バネ88’の上端部に軸孔1010’を形成し、

(d)  縦長状板バネ88’の下部をU字状(第六図の一のもの)または丸状(第六図の二のもの)に折曲げ、該下部を中空脚杆11(イ号図面のものは丸筒形、ロ号図面のものは角筒形である)の両側内壁に当接し、

(e)  中空脚杆11の上端部一側を削落してコ字状とし、

(f)  中空脚杆11の削落側に長孔33’を穿孔せる一側が露呈するごとく中空支柱2を中空脚杆11の上端に嵌挿し、

(g)  中空支柱2、中空脚杆11を貫く軸12に縦長状板バネ8’8の軸孔1010’を遊嵌して中空支柱2、中空脚杆11を軸12を中心に回動自在に枢着し、

(h)  中空脚杆11の起立時には縦長状板バネ88’の係止面99’は係止孔55’に係合し、

(i)  折畳時には縦長状板バネ88’の係止面99’が係止孔44’に係合し

てなる折畳自在脚)は本件考案の(イ)から(リ)までの要件(編注――本件考案は、つぎの構成より成る折畳自在脚の構造にかかるものである。

(イ)  天板1を上端外方に突設した中空支柱2の一側より底面にかけて長孔3を穿孔し、該長孔3の両端を一側に折曲げて係止孔4、5とし、これが係止孔4の内角面をやや削落してアール面6を形成すること

(ロ)  押ボタン7を一側に突設した縦長状板バネ8の上部を両側より折曲げて係止面9を設けること

(ハ)  縦長状板バネ8の上端部に軸孔10を穿孔すること

(ニ)  縦長状板バネ8の下端を中空脚杆11の一側内壁に固定すること

(ホ)  中空脚杆11の上端部一側を削落してコ字状とすること

(ヘ)  中空脚杆11の削落側に長孔3を穿孔せる一側が露呈するごとく中空支柱2を中空脚杆11の上端に嵌挿すること

(ト)  中空支柱2、中空脚杆11を貫く軸12に縦長状板バネ8の軸孔10を遊嵌して中空支柱2、中空脚杆11を軸12を中心に回動自在に枢着すること

(チ)  脚杆11の起立時に縦長状板バネ8の係止面9は係止孔5に係合すること

(リ)  折畳時には縦長状板バネ8の係止面9が係止孔4に係合すること)に順次対応する。そのうち、被告らの製品の(e)の構造が本件考案の(ホ)の要件を満たしていることは当事者間に争いがない。

そこで、被告らの製品の(a)(b)(c)(f)(g)(h)(i)の構造の点について検討すれば、それが外見的には本件考案の(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)の構成に適合するものを左右対称的に重複して設けたものと認めて差支えなく、そのこと自体は被告らもあえて争つていない。ところで、被告らの製品は長孔を穿設した中空支柱と中空脚杆と縦長状板バネの三者を軸12で枢着したものであるが、中空支柱の長孔33’の両端は一側に折曲げられて係止孔44’および55’が設けられ、係止孔44’の内角面にアール面が形成されており、縦長状板バネは長孔33’を案内として回動するようになつている。この事実に<証拠>を参酌すれば、被告らの製品は(a)(b)(c)(f)(g)(h)(i)の構造をとつているので、中空脚杆を起立させるときは、係止孔44’にはアール面があるので押ボタンを押さなくても係止面と係止孔との係合が解かれて回動が可能となり、一たん起立した後は、係止孔55’にはアール面がないので係止面が係止孔に強固に係合され、また、折畳みの際は、押ボタンを押せば中空脚杆の回動が可能となるのであつて、中空脚杆の起立折畳みを容易確実に行うという作用効果を奏するが、被告らの製品においては、対称的に設けられた長孔33’縦長状板バネ88’等の構造がそれぞれ単に並置された状態においてこの作用効果をもたらすことに寄与していることが認められる。したがつて、被告らの製品の(a)(b)(c)(f)(g)(h)(i)の構造は本件考案の(イ)(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)の構成の所期するところと同一の作用効果をもたらすものを二組並設したにすぎないものであるといつてよい。そして、このように同一機能のものを二組設けてその機能の確実性を増すことはその機能の本来持つている性質を変更するものでないことはいうまでもない。このように考えられるから、被告らの製品の右構造は外見上だけでなく実質においても本件考案の右構成に当るものを左右対称的に二組並べたものであるということができ、右構成を満足している。

つぎに、被告らの製品の(d)の構造を本件考案の(ニ)の構成と比較しよう。本件考案のものは縦長状板バネの下端を中空脚杆の一側内壁に固定するものであるが、縦長状板バネは軸12に板バネの軸孔10を遊嵌し、また、中空脚杆に押ボタン7を突設しており、これらによつてその装着位置は定まるところからみて、固定は板バネの位置決めのためよりも板バネに弾性を付与するための手段であることがわかる。ところで、本件考案の全体を観察するに、縦長状板バネが長孔に形成された係止孔に係合するため弾性を持つことは欠くことができないけれども、その弾性をどのような方法によつて付与するかは、特に限定して解しなければならない根拠は見当らない。一方、被告らの製品をみれば、その縦長状板バネ88’は、軸孔1010’が軸12に遊嵌され、また、押ボタン77’を突設しているのでその二点において装着位置は定まるものであり、下部がU字状または丸状に折曲げられているのは専ら弾性を付与するためである。そこで、この縦長状板バネ88’を分析すれば、板バネの下端を半弧状(被告らの製品の下部がU字状の板バネの場合はコ字状に近く、下部が丸状の板バネの場合は半円に近い。以下同じ。)に折曲げて弾性を付与した板バネ8と、同じく下端を半弧状に折曲げて弾性を付与した板バネ8’との二本の板バネをそれぞれ独立に装着すべきところ、両者を合体して下部が折曲げられた縦長状板バネ88’となつていると考えてよい。このことに、なお、<証拠>によつて明らかなような折曲げによつて弾性を付与することは一般に広く知られた方法であることを参酌し、さらに、<証拠>を参照すれば、被告らの製品の折曲げによるものは、本件考案の固定によるものと同じ作用効果を奏するばかりでなく、その差異は型の考案とみた場合設計者が適宜選択し得る程度のことであつて、技術手段として実質的に同一のものと解するのが相当である。また、それは当業者なら誰しも容易に推考し得ることと考えられる。したがつて、被告らの製品の板バネを折曲げたものは、本件考案の固着によるものと類似のものということができる。

この点に関し、被告らは板バネを固定するときは、長年の使用によつて剥離したり固定部分の弾性がそこなわれるのに対し、折曲げによるものにはそのような欠陥はなく、両者は全く異ると主張するが、被告ら主張のように折曲げたものが優れた性能を示すと仮定しても、本件の場合その点の優劣は技術手段として同一であると認めることの妨げとならないから、前記認定を左右するに足りない。要するに、被告らの製品の(d)の構造は本件考案の(ニ)の要件を満足するものである。

以上のように、被告らの製品には本件考案の構成を満足するものが左右対称的に二組設けられていると認められるから、本件考案の技術的範囲に属するものといわねばならない。

なお、被告らは実用新案の技術的範囲は図面中心に解しなければならないというので附言する。本件実用新案権は旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)施行当時の出願に係るものであるから、実用ある新規の型の工業的考案に対して与えられた権利である。したがつて、型の考案を保護の対象とするものであるから、類否の判定に際し図面が重要な意義をもつことは否定しえない。しかしながら、型の考案といつても図面に表示されたところだけに厳密に限定されるわけではなく、図面の表示と多少異なつても類似のものとして保護の範囲に包含されることがあるわけである。本件において、被告らの製品の板バネを折曲げたものは本件考案の固着によるものと類似のものであると認めるべきことは前記のとおりであつて、図面中心に解すべきであるということを理由として被告らの製品が本件考案の構成の範囲外にあるということはできない。

四以上のように被告らの製品は本件登録実用新案の技術的範囲に属するところ、被告らが現にその製造販売を実行していることを認めるに足る証拠はないけれども、被告らは本訴において勝訴した場合には製造販売を再開する予定であると言明しているのであるから、被告らに対し予防請求として製造販売の禁止を求める原告らの請求は理由がある。

五つぎに、原告吉川の損害賠償請求の点について考察する。

被告ワンダフルが昭和四一年一一月から翌四二年二月までの間に折畳自在脚を合計二、〇〇〇セット製造販売し、それによつて合計八万円の利益を挙げたこと、および、被告瑞穂が昭和四一年五月から同四一年一一月までの間に合計三、五〇〇セットを製造販売し、それによつて合計一四万円の利益を挙げたことは当時者間に争いがない。

ところで、被告らが原告らの本件実用新案権を侵害したことは前記認定のとおりであり、その侵害行為について被告らに過失があつたものと法律上推定されるところ、この推定を覆すべき事由についてなんら主張立証がないから、被告らは原告吉川が被つた損害を賠償する義務がある。

進んで、損害の数額について検討すれば、原告吉川は実用新案法第二九条第一項の規定によつて被告らが得た利益の額はすべて同原告の損害の額と推定される旨主張している。しかし、原告本人吉川理三郎の供述によると、本件実用新案の実施品の製造は共有権者である原告長沢が専ら担当し、原告吉川はその全製品を買い受けて転売しているのであつて、原告両名とも本件実用新案を実施してそれぞれ利益を挙げているのであり、各自の挙げている利益額はほぼ相等しいことが認められる。ところで、共有権者が共に実施による利益を挙げているとき、実用新案法第二九条第一項の規定による推定は、各自の挙げている利益額の比率に比例して働くものと解するのが相当である。したがつて、前記被告らの得た利益額の五〇%は原告吉川が受けた損害額と推定される。

してみれば、被告ワンダフルは原告吉川に対し金四万円、被告瑞穂は同被告に対し金七万円の損害賠償義務を負担しているといわねばならない。

六以上の理由によつて、原告らが予防請求として、被告ワンダフルに対しイ号図面および説明書記載の折畳自在脚について、被告瑞穂に対しロ号図面(ただし、第六図はその一のみ)および説明書記載の折畳自在脚について差止を求め、原告吉川が被告ワンダフルに対し金四万円、被告瑞穂に対し金七万円とそれぞれこれに対する訴状送達の日の後の日である昭和四二年三月一日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求は正当として認容し、その余の請求を失当として棄却する。<後略>

(荒木秀一 吉井参也 宇井正一)

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